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HARUのスローライフ日記

~死す時は宮古の海に抱かれて~

(8/26)「別れは突然に!」の巻 

ノックの音がした。
どことなく弱々しさを含んだ音だった。
時刻は昼を少し過ぎたころ。

少し体調が良かった俺は、部屋の簡単な片付けをしていた。
ノックして誰かが訪れて来ることなど、ほとんどない。
いったい誰だろう。ゆっくりとドアを開く。

あぁ、ケンケン――。
ちょっといつもより真剣そうな表情のケンケンが立っていた。
同じ宿で暮らす仲間だ。

ありがとう――。
ケンケンがいきなり右手を差し出してきた。
握手を求める仕草だった。

えっと……、なんかしてあげたっけかな……。
一瞬の間にいろいろと思いだそうとしてみたが、思い当たることは何もない。
するとケンケンが核心的な部分を突く言葉を告げた。

ハルくん、今までありがとう――。
急な話しだけど……、地元に帰ることになった……。
どうしても帰らなくちゃいけなくなった――。

え?なに?どういうこと――?

彼は9月中旬ぐらいまで宮古島にいる予定だったので、俺が戸惑うのも無理はない。
だが一瞬でだいたいの事情は呑み込めた。
きっと彼にとってやむを得ない事情が発生したのだろう。

で、いつ――?
――今日。午後3時の飛行機に乗る。

その言葉を聞いたとき、俺がいったいどんな表情をしていたのかはまるでわからない。
だが突き上げてくる感情はハッキリと覚えている。
俺の心は一瞬にして曇り、その直後、寂しさで溢れた。

ケンケンとは、俺の体調が悪化した8月6日に初めて会った。
夕暮れに染まる屋上で、偶然二人が居合わせたのだ(このときのエピソードはブログで紹介済み)。
彼の底知れぬパワーに、俺の今後の宮古島ライフは変わると確信した出会いだった。

それから約3週間、俺はずっと体調が優れないまま時を過ごした。
ケンケンとは一度もまだ海に行っていない。
とにかく体調が戻ったら、ケンケンと海へ行こうと決めていた。

それは体調回復のためのモチベーションのひとつでもあった。
いつもと同じ海に潜っても、きっと見方が根底から変わるような予感がしていた。
今まで得られなかったような体験ができるに違いない――、俺にそう思わせる、そんな男だった。

そんなケンケンに突然、別れを突きつけられた。
俺は、ただそれを受け入れるしかなかった。
固い握手を交わしながら、お互いに目と目で数秒間、語り合った。

明らかにショックを受けている俺を気遣ってか、ケンケンがいつもの笑顔で”元気を出せよ!”と言わんばかりに言葉を紡ぐ。

――きっと、また会えるって!
そうだね……――。

――出会えて良かった!
俺も……――。

――じゃあ、また!
あぁ、また……――。

――ありがとう!
あぁ、元気で……――。

ケンケンは、その生き方と同じように、吹き抜ける風のように、俺の元を去って行った――。
短い付き合いだ。彼のことをよく知っているわけでもない。
だが彼がどんな男であったとしても、俺にとってはかけがえのない大切な友だった。

心にとんでもなく大きな穴が開いた。
希望は砕け散り、目の前は真っ暗になった。
この後、俺は何をモチベーションに宮古島に対峙していけばいいのだろう。

ケンケンと一緒に潜りに行くことをどれだけ楽しみにしていたか。
男二人だけで、とことんミヤコブルーの海に挑戦したかった。
それが叶わぬ夢になった今、俺の喪失感と絶望感は計り知れない。

神は……。
神は、俺から何もかも奪うつもりなのか。
これ以上、俺から何を奪う?

体力も気力も精神力も、ささやかな望みさえも奪われた今、未来は曇りガラスの向こうにしか見えない――。
2016/08/26 Fri. 13:00 | trackback: -- | comment: -- | edit