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HARUのスローライフ日記

~死す時は宮古の海に抱かれて~

(7/20)「ボブ事件!」の巻 

20160720 bob (1)
2016年7月20日、宮古島出発の日。
これからどんな旅が始まるのだろう――。
俺の心は期待に膨らんでいた。

20160720 bob (3)
俺は通路側の所定の席に座った。
窓際にはおばちゃんが一人で座っていた。
俺とおばちゃんの間は空席だった。

おばちゃんはペットボトルのお茶をゴクゴク飲んでいた。
ここまでは至って普通のよくある光景だ。
だがこのあと絶望的に理不尽で、理解不能な悪夢がはじまるのだった……。

離陸してまもなく、ベルト着用サインが消えると、おばちゃんがトイレに立った。
俺はひざを折り曲げて、おばちゃんを通路側へ通す。
しばらくして、トイレからおばちゃんが帰ってきた。
俺はひざを折り曲げて、今度はおばちゃんを窓際の席へ通す。

平和な空の旅の始まりだ。

自分の席に戻ると、おばちゃんはお茶をゴクゴクと飲んでいた。
よほど喉が渇いているのだろう。
そんな風に軽く考えていた。

10分ほどすると、再びおばちゃんが席を立った。
またトイレへ行くようだ。
俺はひざを折り曲げて、おばちゃんを通路側へ通す。
しばらくして、トイレからおばちゃんが帰ってくる。
俺はひざを折り曲げて、おばちゃんを窓際の席へ通す。

このあたりから、俺は心の中でいろいろなことを考えはじめるようになる。
考える際、便宜上このおばちゃんを“ボブ”と名付けることにした。
その風貌が、完全に初期のボブ・ディランだったからだ。

機内のドリンクサービスがまわってきた。
ボブが冷たいお茶を注文する。
これだけトイレが近いのに、また飲むのか――、誰もがそう思うに違いない。
利尿作用の高いお茶をそんなに飲んだらまたトイレに行きたくなるだろうに……。

そう思っていると案の定、再びボブが席を立った。
またトイレへ行くのだろう。
俺はひざを折り曲げて、ボブを通路側へ通す。
しばらくして、トイレからボブが帰ってくる。
俺はひざを折り曲げて、ボブを窓際の席へ通す。

ボブは着席するや否や、なんとしたかことか、CAさんにお茶のおかわりを注文した。
嘘だろ――?冗談だろ――?
ボブ、今の自分の膀胱の状態をわかっているのかい?
俺は心の中で質問を投げかけた。

おかわりのお茶が届けられると、ボブはまたゴクゴクと飲み始めた。
今のトイレのペースだって尋常ではない。
そのくらいにしておかないと、本当にとんでもないことになるぜ――?

そう思っていると、再びボブが席を立つ。
またトイレに行きやがるのだ。
俺はひざを面倒くさそうに折り曲げて、ボブを通路側へ追い出す。
しばらくして、トイレからボブが帰ってくる。
俺はひざを再び面倒くさそうに折り曲げて、ボブを窓際の席へ追いやる。

これでは全然、落ち着いて眠ることができない。
寝ようと思ってウトウトすると、ボブがトイレに行くからだ。
冗談じゃない、せっかくゆっくり眠るために直行便の宮古行きにしたというのに。

ボブがようやく機内サービスのお茶を飲み終えた。
これでまずは一安心だ――。

そう思った刹那、俺は地獄を目の当たりにする。
ボブが自分のバッグから封の開いていない新規のペットボトルを出したのだ。
どんだけお茶を持ち込んでいやがるのだ。

ボブ……、いい加減にしろよ……。
マジで膀胱破裂すんぞ?
わかっているのか?

ボブは俺の不安をよそに、またゴクゴクとお茶を飲み始めた。
あなたは静岡の人ですか?

しばらくすると、当然だが再びボブが席を立つ。
またトイレに行きやがるつもりだ。
飛行機はトイレじゃないんだぜ?

俺はひざを折り曲げることを軽く拒否し、イラ立ちをアピールした。
しかしボブは自分の足を、俺のひざにゴリゴリと押し付けて通路に脱出する。

いっそのこと、もう帰ってこないでくれ――。
しかし当然のことながら、用を済ませたボブは意気揚々とトイレから戻って来る。
俺は関節が曲がらないんじゃないかと思うくらいひざを硬くさせ、ボブを全力でブロックしたが、ヤツにはまったく通じなかった。

俺は意を決して眠ることにした。
もう何があっても起きるものか。
そう思ってウトウトしはじめたころ、顔の前に何か異様な違和感と不安感を覚えた。
嫌な予感がして目を開けてみると、信じられない光景がそこに広がっていた。

20160720 bob (2)
俺と前の座席の狭い空間を、ボブは俺の顔の前をまたがって通路に出ようとしていたのだ。
つまり今、俺の目の前にあるものは、膀胱が破裂寸前のボブの股間。
他人の股間が自分の顔の数センチ前にくることなど、そうあるものではない。
ましてやここは飛行機の中。他人の股間が目の前にくることなど決してあってはならないのだ。

俺は目の前の股間に恐怖し、そのあまりのインパクトと不快感に思わず目と鼻を強く閉じた。
そしてひたすら静かに、ボブの股間が目の前を通り過ぎるのを待った。

どうやらボブに常識やモラルは通用しないようだ。
傍若無人なボブの前に、俺は完全降伏することを決めた。

そんな不毛な戦いをしているうちに宮古島が近づいてきた。
(結局、ぜんぜん眠れなかった)
眼下に宮古島が見えるらしく、機内に小さな歓声が沸き起こる。

俺もそれを見ようと思い、窓のほうに目をやった。
そこには宮古島の美しい景色……、ではなく、見えたのはボブのモシャモシャの後頭部だけだった。

20160720 bob (4)
俺の安眠を妨害した上に、美しい景色を見ることも許さない。
それがボブの流儀。

そんな無茶苦茶なボブに、ひとつだけお願いがある。

頼むから……、次回からは通路側の席に座れ!!

これが俺が遭遇した"ボブ事件"の一部始終である――。
2016/07/20 Wed. 14:00 | trackback: -- | comment: -- | edit