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HARUのスローライフ日記

~死す時は宮古の海に抱かれて~

(5/8)「突き付けられた現実」の巻 

20170508 (2)
総合病院の眼科へと足を運んだ。
おそらく俺にとって、ここが「最後の砦(とりで)」となるであろう。
ここでダメだったなら、もう本当にあきらめるしかない。

今まで行った3軒の眼科では、やらなかったような検査をいくつか受けた。
「断層スキャン」という聞き慣れない言葉も耳にした。
目のあらゆる部分を検査されているという実感があった。

20170508 (1)
ここまで充実した機器があるのなら、もしかして治る可能性も見出せるかもしれないと思った。
すべての検査を一通り終えたあと、診察室に呼ばれた。
待っている間は、聞かされる検査結果がまるで想像できず、終始落ち着かなかった。

すべての検査結果を踏まえた上で、医師が重々しい口調で言葉を発した。
「検査の結果ですが……、まず……、これは病気ではありません」
緊張が一気にほぐれ、俺は安堵(あんど)した。

しかし医師の次の言葉が俺を凍りつかせた。
「……病気ではないので、治療方法もなく、治ることもありません」
俺は医師の顔を見つめたまま、言葉を失った。
顔から血の気が引き、蒼ざめていくのを感じた。

「まぁ、気にはなるでしょうけど、病気ではないので安心してください。もっと酷い状態の患者さんもたくさん診てますから……」
途中から医師の言葉は耳に入ってこなかった。

思考が停止したような、過去のすべての記憶がフラッシュバックしたような奇妙な感覚だった。
人は受け入れがたい状況に追い詰められたとき、心を守るために現実から逃避しようとするのかもしれない。

「手の甲には血管がたくさんありますよね。太い血管もあれば、細い血管もある。それと同じなんです。私の目にも細かい血管がたくさん見えるでしょ?その血管は消えることはないし、太くなった血管が細くなることもないんです」
自分の手の甲を見ながら、医師の言葉だけが俺の頭の中でリフレインしていた。

俺の結膜(白目)に浮き出た太くて赤い血管は、もう二度と消えることはない――。
経験を積み重ねてきた専門医の、揺るぎない最終診断結果だった。
そして一縷(いちる)の望みが消えた瞬間でもあった。

覚悟はしていた。
覚悟はしていたけれど、こうハッキリ言われると、やはり辛い。
だがしっかりと診断結果を伝えてくれた医師に対しては感謝している。

診察室を出て、俺はすぐに洗面所へ向かった。
いつもは見たくない鏡だったが、今すぐに自分の目を確認したかった。
奇跡など起きるはずはなく、そこに映っていたのは醜い右目だった。

この目で、この先ずっと生きていかなければならないんだな――。

涙がこぼれそうになった。
皮肉なことに、血管が浮き出た醜い右目にも、涙を流す機能だけは残されていた。
鏡の前でしばらく突っ伏したまま動けなかった。

これまで生きてきた人生とは、まるで違う人生がこれから始まろうとしている――。
2017/05/08 Mon. 23:00 | trackback: -- | comment: -- | edit