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HARUのスローライフ日記

~死す時は宮古の海に抱かれて~

(5/25)「カズさん」の巻 

長い人生の中で、失敗や過ちは誰にだってあるはずだ。
どれほど慎重な人間でも、どれだけ計画性のある人間でも、失敗のない人生など存在するはずがない。
俺も数えきれないほど多くの失敗や過ちを繰り返してきた。

出口が何処にも見出せず、絶対に二度と立ち直れないだろうと思った出来事もあった。
だが振り返ってみると、それらはすべて「時間」という魔法が解決してくれた。
修復不可能だと思われるほど粉々に砕けた心でさえも、気づけば自然治癒してきた。

今回の「目」の件は、俺の中で人生最大の過ちとなった。
ついに「本当に取り返しのつかない」ことをやってしまった。
どれだけ後悔してみても、どれだけ泣きわめいてみても、何も変わらぬ過酷な現実。

傷つけた部位が「目」でなかったら、確かに「時間」が解決してくれていたかもしれない。
だが「目」という部位は、精神をやられてしまう、きわめて厄介な場所だ。
いくら現実から逃れようとしても、毎朝、鏡を見るたびに自分の過ちが、まるで昨日のことのようにフラッシュバックする。

毎年、春が近づいてくると花粉症で目がかゆくなっていた。
コンタクトを装用していることもあり、かゆみとともに目が乾き、充血することも多かった。
だがそれは毎年のことなので、特に気にもとめなかった。

春先恒例の「いつものこと」だとしか思っていなかった。
だから目の渇きや、充血が悪化していたにもかかわらず、特段気にする事もなく、そのままコンタクト装用を続けた。
それらの症状が角膜の酸素不足を知らせる危険信号だとも知らずに……。

コンタクトを装用していたため、空気中から酸素を取り入れられなくなった角膜。
だが角膜には酸素が必要だ。
そこで角膜に酸素を供給するため、人体の神秘ともいえる生体反応が起きる。

結膜(白目)から角膜へ向かって、新しい血管が伸びていったのだ。
これを医療用語で「角膜血管新生」と呼ぶ。

今まで見たこともない、結膜(白目)には存在しなかった血管である。
まったく新しい血管が生成され、その血液を通して角膜へ酸素が供給された。
すべては角膜を守るために。

その新しく生まれた血管は、元に戻ることも、消えることもない。
永遠にそこにあり続ける。
新しい血管が生まれているとも知らず、俺はそれを「ただの充血」だと見過ごしてしまっていた。

俺が目に異常を感じた時点でコンタクト装用をやめていれば……。
悔やんでも悔やみきれない。
すべては後の祭り。

今日、たまたま宮古島のゲストハウスで管理人をやっているカズさんから電話がきた。
今年はカズさんの宿にお世話になるつもりでいた。
そのことで電話があったのだ。

カズさんは俺より一回りほど年上で、宮古島ではもっとも俺のことを親身に考えてくれる人だ。
2014年にシュノーケリングガイドの仕事をしているとき、折れそうになった俺の心をいつも励ましてくれたのもカズさんだった。

そんなカズさんに、はじめて「目」のことを話した。
今回の「目」のことは、親しい友人とメールやラインで話したことはあったが、電話で直接話をしたことは一度もなかった。
だから「目」のことを電話で話したのは、今日のカズさんが初めてということになる。

どこから話していいものやらわからなかった。
気持ちが高ぶっていたせいもある。
だが務めて冷静さを装い淡々と事情を説明した。

メールやラインでは、ある程度自分の感情を抑えて話すことができる。
だが電話は違った。
思わず感情が溢れてしまう。

やがてその感情が抑え切れなくなり、いつのまにか涙が頬を伝った。
言葉は不器用に途切れ途切れになった。
だがカズさんは、俺の話を最後までしっかりと聞いてくれた。

宮古に行くことも思い悩んでいると伝えた。
今の状態で行っても、楽しめる自信がないし、海にもまともに入れるかわからない。
逡巡する俺に、カズさんは優しく言葉をかけてくれた。

――だからこそ、宮古に来たらいいんじゃないですか?
ハルさんはハルさんで何も変わらんでしょ?
ハルさんを知っている人が、今のハルさんの目を見て、気持ち悪いとか、距離を置いたりとかすると思いますか?
そんなこと絶対にあるわけない。
だから目のことなど気にせず、来ればいいんですよ、宮古に。
綺麗な海や、たくさんの友達が、みんなハルさんが来るのを待ってますよ――。

カズさんのかけてくれる言葉はどこまでも温かさに満ちていて、俺の傷ついた心をやわらかい毛布でくるまってくれるようだった。
不思議なことに、こんな醜くなってしまった目でも、涙だけは汚れを知らぬ透明さを宿していた。
俺は電話口で泣き崩れた。

カズさんをはじめ、みんな俺に優しくしてくれる。
俺はそんな周りの人の優しさに今まで甘え続けてきた。
だが今回の壁だけは、自分自身で乗り越えなければならない。

周りの人の優しさが俺を後押ししてくれるような気がした――。
2017/05/25 Thu. 23:00 | trackback: -- | comment: -- | edit