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HARUのスローライフ日記

~死す時は宮古の海に抱かれて~

(6/19)「ありがとうK子」の巻 

K子は地元へ帰るための新幹線の都合もあるので、あまり遅くはなれない。
時刻はすでに17時を過ぎていたので、そのまま居酒屋へ入ることにした。
居酒屋へ行くまでの道中、お互いさしさわりのない会話をした。

20170619 kanako
まずは再会を祝して乾杯。
食事をしながら、お互いの近況報告をする。
K子は先日、小笠原諸島へ行ってきたばかりなので、そのときの写真を見せてもらったりした。

やがて話題は必然的に俺の「目」のことになる。
「ここからじゃ全然見えないから、もっと近くで見せて」
その言葉に促され、K子のほうに顔を寄せる。

「見えた?目立つでしょ血管……」
「え?どれ?」
「ほら、この右目の外側に……」
俺はK子によく見えるように、まぶたをつまみ引っ張った。
ここまですれば見えないわけがない。

「え?どこ?ないじゃん血管なんて」
K子はとぼけているに違いない。
「ほらあるでしょ、ここらへんに……」
「いや、本当にわからないんだけど……」
そこまで言われると、俺もさすがに困った。

「店内が薄暗いからわからないのかな……。明るいところで見たらすぐわかるよ」
「じゃあ、あとでまた明るいところで見せて」
「わかった」
とりあえず店内での「目」の「目視確認」はこれで終わった。

宮古島の話になった。
そもそも俺とK子は宮古島で出会ったのだ。
あの伝説のプレハブゲストハウスで。

今年K子は7月8日から宮古島に行くらしい。
俺が宮古島に行くとしたら7月6日からなので、日程はかぶりそうだ。
行くかどうかはわからないが……。

やがて居酒屋を出た。
ビルのエントランスや、駅構内の明るい場所で、何度もK子に右目を見せた。

「え?どこ?ないじゃん血管なんて。本当にぜんぜん分からないよ」
K子は同じセリフを繰り返す。

「薄い血管はあるけど、そんなの誰にでもあるよ」
K子はそう言って、自分自身の目を見開いて俺に見せる。
「ほら、私もあるでしょ血管?」
「え……、うん。あるね……」
遠目からではわからないが、確かにあった。

「誰にだってあるんだよ血管なんて。血管がない人のほうが気持ち悪いよ。そんなの気にして宮古島に行かないなんて絶対あり得ない。しかも病気でもなんでもないんでしょ?そんなことで宮古島に行かないなんてもったいないよ」
強い口調だったが、優しさに満ちていた。

「そう……、かな……?」
「そうだよ!行かなきゃダメだよ!」
「……そう?」
「そう!」

そんなやり取りを何度も繰り返した。
K子のあまりの真剣さに、俺は少したじろいだ。
鉛のように重かった俺の心の氷は徐々に溶け始めていた。

「そうだね、行こうかな宮古……」
「そうだよ、行こう行こう!」

この目はもう治らない――。
昼間、医者にそう宣告された。
最初はショックだったが、ある意味吹っ切れた部分もあった。

安静にさえしていれば、少しずつ回復する可能性がある――、というなら、宮古島行きは断念しようと思っていた。
だが、どうせもう治らないのなら、宮古島に行かない理由はないんじゃないか――。
そんな風に考え方が変わってきていたところだった。
それをダメ押しするかのように、K子の優しい言葉が心に響いた。

「見えない力」が、俺を宮古島に行かせまいとしていた。
今は「見えない力」が、俺を宮古島へ行かせようとしている。
そんな気がした。

「目」の状態は昨日と変わらないが、俺の「心」が変わった。
この目がもう一生治らないなら、残された日々、泣いて過ごすよりも、笑って過ごすことを選びたい。
同じ一生なら、涙よりも笑顔がいい。

宮古行きチケット搭乗日まで、あと17日。
俺は宮古島へ行くことを決めた――。

ありがとう、K子。
ありがとう、すべての友よ。
ありがとう、いつも俺を応援してくれているブログ読者のみなさん。

弱音を吐くのはもう今日で終わりだ――。
2017/06/19 Mon. 23:00 | trackback: -- | comment: -- | edit